【3219】 ○ 川島 雄三 (原作:山本周五郎) 「青べか物語 (1962/06 東宝) ★★★☆

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浦粕(浦安)で暮らす人々の悲喜こもごも。原作を巧みに再構成した新藤兼人脚本。

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青べか物語 [DVD]」森繁久彌/左幸子/フランキー堺/池内淳子
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 東京都と千葉県の境を流れる江戸川の河口に、貝と海苔と釣場で有名な浦粕集落がある。ある日、「先生」と呼ばれる三文文士(森繁久彌)がやって来て、当分の住いを、片足が不自由な妻(乙羽信子)と暮らす増さん(山茶花究)の家の二階に決める。着て早々、先生は見知らぬ老人・芳爺(東野英治郎)から、青べか舟を売りつけられる。先生が観察するに、この地では他人の女房と寝るぐらいのことは珍しくなく、動物的本能が公然と罷り通っている大変なところだった。町にはごったく屋という小料理屋が多い。その中の一軒「澄川」に威勢のいいおせい(左幸子)、おきん(紅美恵子)、おかつ(富永美沙子)の3人が働いている。「澄川」の真ん前に「みその」洋品雑貨店があり、息子・五郎(フランキー堺)の花嫁(中村メイコ)は里帰りしたまま戻ってこない。べか舟を先生に売りつけた芳爺、消防署長わに久(加藤武)、天ぷら屋の勘六(桂小金治)あさ子(原悦子)夫婦などが五郎は不能らしいと噂をふりまいた。だが、孤独な生活を楽しんでいる老人もいる。廃船になった蒸気船に寝泊りしている老船長(左卜全)がそれだ。彼はいまだに若い頃の恋人(桜井浩子)を想い浮かべることによってのみ生き甲斐を感じているかのようである。飲み屋の連中の騒ぎ、バクチ場で血相変えて喚く連中、様々な人間模様に興味を感じながらも、煩わしさを避けて先生は青べか舟で釣りに出掛ける。五郎には母親(千石規子)が新しい花嫁(池内淳子)を連れてきて、今度は不能だなどと陰口も叩かれず、幸福な生活に入れるらしい。そんな先生に思いがけない事件が起きる。ごったく屋のおせいが先生に惚れたのだ。言い寄られた先生は眼を白黒。失恋のおせいは、腹いせに偽装心中を図る。とんでもない騒ぎに巻き込まれた先生は、様々な思いを抱きながらも浦粕集落から逃げ出すことにした―。

 1962(昭和37)年公開の川島雄三監督作品。個人的には劇場(神保町シアター)で観ましたが、昨年['21年]やっとDVD化された作品であり、これまでなかなか観る機会が無かった作品です。

青べか物語1.jpg 原作は山本周五郎が1960(昭和35)年1月から12月にかけて「文藝春秋」に連載したもので、この年、作者は57歳。ただし、実際に作者が浦安(作中では原作・映画とも"浦粕"となっている)に住んだのは、1924(大正15)年からの3年間、23歳から26歳までの間のことで、町の人から「先生」と呼ばれているけれど、実はまだ20代の若さだったのです。

 映画では設定を、浦安付近の埋め立てがまさに始まらんとする直前(浦安市の海面埋め立てが始まったのは1964(昭和39)年)、つまり映画撮影時の"現在('62年)"に置き換えているようにも見えますが(冒頭にそう思わせる浦安の'62年当時の風景シーンがあり、そのままドラマ部分に入っていく。警察官も戦後のそれの恰好をしている)、一方で、描かれている物語の中身や背景はとても戦後とは思われず、昭和初期といった感じなのはそのためでしょう(母親に売り飛ばされた娘の話などがあったりする)。永らくDVD化(ビデオ化)されなかったのは、地元の人に浦安とその周辺の描き方に根強い反発や忌避感があったためだとのことですが、それは、このアナクロニズムによるものではないでしょうか。

「青べか物語」12.jpg 原作は33篇のエピソードからなる「浦粕」とそこに暮らす人々のいわば"点描"ですが、映画ではそこから幾つかのエピソードを拾い上げて膨らませ、特にフランキー堺が演じる五郎の結婚騒動が中心にきているため、哀しい話もあるけれども、全体的には喜劇色が強くなっているように思いました。それでも、原作を巧みに再構成し(脚本は新藤兼人)、「浦粕」で暮らす人々の悲喜交交(こもごも)をよく描いた作品だと思います。

「青べか物語」11.jpg 森繁久彌は主人公の語り手の立場で、珍しく受け身的な演技でしたが、これはこれでぴったりでした。最後、逃げ出すかのように「浦粕」を去るのも原作と同じです。左卜全演じる「船長」が、退職後、廃船に住んでいまだに若いころの恋人(桜井浩子)を思い出しているというのも切なかったです。

「青べか物語」13.jpg 名優揃いですが、その魅力を引き出す川島雄三の演出はさすが。先に述べたように、時代が戦後なのか昭和初期なのかよくわからないのが残念で(戦後だとすればかなりアナクロということになる)星半分マイナス。でも、もうこうした映画は撮れないだろうという思いで(加えて、久しく待望されたDVD化を祝して)星半分オマケして、最終的に星3つ半というところでしょうか。

 
「青べか物語」14.jpg「青べか物語」●制作年:1962年●監督:川島雄三●製作:佐藤一郎/椎野英之●脚本:新藤兼人●撮影:岡崎宏三●音楽:池野成●原作:山本周五郎●時間:101分●出演:森繁久彌/東野英治郎/南弘子/丹阿弥谷津子/左幸子/紅美恵子/富永美沙子/都家かつ江/フランキー堺/千石規子/中村メイコ/池内淳子/加藤武/中村是好/桂小金治/市原悦子/山茶花究/乙羽信子/園井啓介/左卜全/井川比佐志/東野英心/小池朝雄/名古屋章●公開:1962/06●配給:東宝●最初に観た場所:神保町シアター(22-11-10)(評価:★★★☆)

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This page contains a single entry by wada published on 2022年11月18日 22:20.

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